
ITインフラの効率的な構築手段の一つとして、仮想化が注目されています。限られたリソースでシステムのパフォーマンスを上げられることから、導入を検討している企業も多いかと思います。
しかし「名前は聞くけれど仕組みを理解できていない」「導入した後にシステムに影響が出ないか不安」と悩む方もいるでしょう。そこで本記事では以下の内容について解説します。
仮想化の仕組みと方式
仮想化のメリットと注意点
おすすめの仮想化ソフトウェア
本記事を最後まで読めば、仮想化の仕組みとメリットを理解でき、自社で導入して効果を得られるか判断できます。ITインフラの構築・運用でリソースを有効活用したい中小企業の経営者は、参考にしてください。
ITインフラの仮想化とは?
ITインフラの仮想化とは、物理的な構成要素(サーバー、ネットワーク、ストレージなど)を抽象化する技術です。
従来のITインフラの場合、目的や用途ごとにハードウェアを用意するのが一般的でした。たとえば、メールやWebへのアクセス、ファイルの管理など、目的ごとにハードウェアが増えていくイメージです。仮想化技術を使えば、1つのハードウェア上で複数のサーバーやストレージを構築できるため、コスト効率を上げることができます。
不動産にたとえると、仮想化はシェアハウスに当てはまるでしょう。一つの家で複数の住人(サーバー)が同居し、キッチンや風呂、テレビなど必要なリソースを共有できます。一人暮らしのように各個人に家(ハードウェア)を用意しなくて良いので、家具家電の生産性が向上するイメージです。
クラウドとの違い
クラウドと仮想化は混同されやすい用語です。それぞれの意味を以下にまとめました。
クラウド:インターネット経由でコンピューターリソースを利用すること
仮想化:コンピューターリソースを一つのハードウェアで抽象化すること
クラウドとは、自社でハードウェアやソフトウェアをもたず、インターネット経由で事業者のリソースを使うことです。仮想化とは一つのハードウェアにコンピューターリソースを集約することで、クラウドのようにリソースが自社になくても仮想化技術は利用できます。平たく言えば、クラウドは「サービス」で仮想化は「テクノロジー」と言えます。
ただし、AWS(Amazon Web Service)のようなパブリッククラウドは、クラウドに仮想化技術を導入しているケースがほとんど。従来通りのハードウェア運用では、迅速な開発サイクルに対応したサービスを提供できないからです。
このように、大規模なクラウドサービスを実現できているのも、仮想化の下支えがあるからです。
ITインフラの仮想化方式3パターン
ITインフラの仮想化には以下の3つの方式が採用されています。
- ホスト型
- ハイパーバイザー型
- コンテナ型
1. ホスト型
出典:筑波大学
ホスト型とは既存のOS(ホストOS)に仮想化ソフトウェアをインストールする方式です。
仮想化ソフトウェアとは、CPUやメモリなどハードウェアリソースを仮想化し、それぞれの仮想マシンとして稼働させるソフトウェアのこと。
ホストOSに直接仮想化ソフトウェアをインストールするので、簡単に環境を構築できる点が魅力です。
一方で、ホストOSと仮想化ソフトウェアの両方でハードウェアを利用するため、ゲストOS(仮想マシン上で動くOS)のリソースが限られることに注意が必要です。
2. ハイパーバイザー型
出典:南山大学
ハイパーバイザー型とは、上の図のようにハードウェアへ直接仮想化ソフトウェアをインストールする方式です。
ホストOSが必要ない分、仮想マシンのリソースを増やすことが可能です。また、仮想化ソフトウェアがハードウェアを直接コントロールするため、ホストOSのオーバーヘッド(間接的に発生する余計な負荷や処理)がなくなります。
ただし、ハードウェアの構成や独自のインストール方法などを理解しなければいけないので、高い専門性が求められます。
3. コンテナ型
出典:慶應義塾大学
コンテナ型とは、カーネル(OSの基本機能を有するソフトウェア)を共有しながら、OSが管理するリソースを独立した環境(コンテナ)で運用する方式です。上の図で言えば、右上にある四角の領域がコンテナに該当します。
カーネルの共有によって、ホスト型やハイパーバイザー型よりハードウェアリソースを効率良く利用できる点がメリットです。また、コンテナの起動はプロセス(動作中のプログラム)の起動と大差がないため、起動速度が高速な点も特徴です。
ただし、OSに対応していないアプリケーションを使うことができません。またコンテナが増えると運用・管理の負担が増える点にも注意が必要です。
ITインフラで仮想化できるもの
ITインフラでは、主に以下のハードウェア・サービスを仮想化できます。
サーバー
ストレージ
ネットワーク
デスクトップ
サーバー
サーバーは、運用の効率面で仮想化に向いているハードウェアの一つです。前章で述べたように1つの物理サーバー上で仮想のサーバーを複数立てられ、その中でOSを稼働させることができます。
メリットはCPUの使用効率が上昇すること。従来の物理サーバーでは、システムごとにCPUの使用率が異なるケースが多く、空きリソースに差が出ることが問題でした。
しかし、仮想化サーバーで複数のサーバーを統一すると、一つのCPUを必要に応じて割り当てることができます。また、古い物理サーバーでも仮想環境の構築により最新のOSを利用できるのもポイント。
このように、サーバーの仮想化はリソースを有効活用できるのと、容易に最新の環境を構築できる点で魅力的と言えます。
ストレージ
ストレージの仮想化とは、複数ある物理的なストレージ(データの保管領域)を抽象化し、同じシステムで管理することです。
サーバーの仮想化とのおおきな違いは運用目的にあります。サーバーの仮想化はハードウェアリソースの最適化や最新ソフトウェア、OSの迅速な利用が主目的です。一方でストレージの仮想化は、データの効率的な管理と柔軟なリソース調整に重点が置かれています。
将来、事業の拡大でシステムへのアクセス量が増え、取り扱うデータが増えるのであればストレージの仮想化が急務と言えます。また、仮想化されたストレージはバックアップのプロセスを簡略化できるため、万が一データが破損してもスムーズに復旧できるでしょう。
ネットワーク
ネットワークの仮想化とは、本来ハードウェアで構成していたネットワークをソフトウェアで抽象化・構築することです。
1つのサーバー上でネットワーク機器が稼働しているように構築できるため、ケーブルやルータ、スイッチなどのハードウェアリソースを削減することができます。
また、機器ごとに管理していたネットワークを仮想化で一元管理できるのも魅力。従来だとデバイスごとに専門のエンジニアに管理を依存せざるを得ませんでしたが、仮想化でその負担も減るでしょう。
主に利用される仮想化ネットワークは以下のとおりです。
主なネットワークの仮想化技術 | 概要・特徴 |
VLAN | スイッチ内部でLANのセグメント(※)分割できる 複数のスイッチに跨りネットワークを仮想化 セキュリティを強固にできる |
SDN (Software Defined Network) | ソフトウェアでネットワークをコントロール 基本的に物理構成が変更不要 |
NFV (Network Function Virtualization) | ネットワーク機能を仮想マシンに搭載 各種機器の設定・管理の負担を軽減 |
※セグメント:特定の条件で切り分けられたネットワーク
このように、ハードウェアで構築していたネットワークを仮想化することで、管理負担の軽減やセキュリティ性の向上を期待できます。
デスクトップ
出典:北見工業大学
仮想化デスクトップとはVDI(Virtual Desktop Infrastructure)とも呼ばれ、サーバー上でデスクトップ環境を仮想化することを指します。
上の図のように遠隔地から組織内のコンピューターにアクセスできるため、柔軟なワークスタイルに対応できる点が特徴です。
またセキュリティ面の懸念ですが、自社に保有しているリソースに直接アクセスするので、エンドユーザーの端末にデータが保管されているわけではありません。そのため、万が一デバイスを紛失しても漏洩のリスクが少なく、コンピューターウイルスの感染リスクを抑えることができます。
そして、従来であれば個々のPCで必要だったハードウェアの設定を簡素化することが可能。とくに端末の大量導入を考えている企業であれば、VDIはコスト面でメリットがおおきいと言えます。
ITインフラを仮想化するメリット
ここではITインフラに共通する仮想化のメリットを解説します。
コストを削減できる
リソースを有効活用できる
ハードウェアの管理が簡単になる
仮想化の概念は理解が難しいので、日常生活で身近な「住まい」にたとえて解説します。
コストを削減できる
複数のハードウェアを仮想化でひとまとめにできるため、コストを削減することができます。仮想化ソフトウェアの費用がかかりますが、それ以上にハードウェアの購入とメンテナンス、運用に伴う電気代を削減できるでしょう。
また、トラブルが発生したときに調査対象となるハードウェアが少なくなるのもポイント。機器ごとに専門家の手助けを借りる手間も省けるので、人件費の抑制も期待できます。
リソースを有効活用できる
CPUやストレージなどのリソースを効率的に使えるのも、仮想化の魅力です。
サーバー1つとっても、メールサーバーやWebサーバー、データベースサーバーなど用途によってハードウェアリソースを準備しなければいけません。運用によっては空きリソースができてしまい、有効活用できないケースもあります。
しかし仮想化でリソースを集約すれば、空いたリソースを必要に応じて割り当てることができます。
不動産にたとえると、シェアハウスで家具家電を共有しているイメージです。一人暮らしだと人数分の部屋と家具家電(リソース)を用意しなければならず、それらの使用頻度もライフスタイルによって異なります。シェアハウスで複数人が同居(仮想化)し、家具家電(CPU・ストレージなど)を必要に応じて使い分ければ、設備の無駄がなくなるでしょう。
このように、空きリソースを削減できるのも仮想化の強みです。
ハードウェアの管理が簡単になる
大規模になりやすいITインフラですが、物理的な構成要素を仮想化することで、ハードウェアを管理する負担が大幅に減ります。仮想化したリソース分ハードウェアが減るため、メンテナンスと修理・交換の頻度が減るからです。
不動産で言えば、戸建てを複数管理するよりマンションで一括管理したほうが効率が良いのと同じです。戸建てだと給湯器や電気系統を個別にメンテナンスする必要がありますが、マンションならある程度の設備を集約(仮想化)することができます。
ITインフラを仮想化するときの注意点
仮想化のメリットを解説しましたが、万能と言うわけではありません。ここでは、ITインフラを仮想化するときの注意点を解説します。
システムの処理能力が低下する
ITインフラを仮想化するとハードウェアリソースの稼働率が上がる分、どうしても性能の劣化が早まります。
CPUやメモリの劣化は目立ちにくいですが、ストレージの性能低下が早まる傾向にあります。システムの構成やリソースの使用率にもよりますが、ストレージへの書き込み性能は3割弱落ちるでしょう。そのため、通常の運用監視を強化する必要があります。
ただし、近年は仮想化による性能劣化の原因を特定する技術も開発されています。ネットワークのパケット(データの単位)監視で劣化原因を割り出せるため、システムへの影響が出ることはありません。従来の原因調査より大幅に業務負担を削減できることから、今後は仮想化による性能劣化のデメリットも軽減されるでしょう。
参考:富士通
障害リスクが高まる可能性がある
仮想化とは、複数あるハードウェアリソースを抽象化してまとめる技術です。つまり、ベースのハードウェアが故障すると、仮想環境全体に影響を及ぼす恐れがあります。
また、仮想環境ではいくつものレイヤー、OSが重なっているため、物理環境に比べて原因の切り分けが難しいのもネックです。一つの障害で重大な影響を出さないよう、ネットワークのスイッチを複数用意したり、ストレージの接続をマルチパスにしたりして冗長化を図りましょう。
セキュリティ対策が難しくなる
ITインフラを仮想化すると、セキュリティリスクを高める可能性があります。同じハードウェア上で複数のサーバー、OSが稼働するため、ハードウェアが攻撃を受けると仮想マシン全体が被害に遭うかもしれないからです。
また、仮想環境は手軽に構築できるので、仮想マシンが乱立して管理が煩雑になることもあります。そのせいでサイバー攻撃を受けたときに、問題の特定や解消に手間取る可能性も否めません。
サイバー攻撃の被害を最小限に抑えるよう、サーバー全体のバックアップや仮想環境に対応したセキュリティソフトの導入も検討しましょう。
関連記事:ITインフラにおけるセキュリティとは?重要性と企業の被害事例・対策も解説
仮想化に知見のある人材が必要
仮想化を実現するためには、ネットワークやOS、サーバーの構成などの幅広い専門知識が求められます。後に紹介する仮想化ソフトウェアを利用する場合でも、仮想化のメカニズムを熟知していなければ使いこなすのは難しいでしょう。
仮想化に長けた人材を採用するなら中途採用が主流ですが、近年はIT人材の不足や雇用コストの面から正社員採用が難しくなりつつあります。
即戦力性とコストの適正化を実現するなら、フリーランスエンジニアへの委託がおすすめです。自社が求めるスキルセットと実務経験を元に人材を選ぶことができます。またプロジェクトごとに契約を結ぶため、業務の難易度、需要にあわせて人件費を調整できるのもうれしいポイントです。
人材の見極め方や具体的なコスト相場については、下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:インフラエンジニア案件をフリーランスに業務委託する方法とメリットを解説
ITインフラの仮想化におすすめのソフトウェア
仮想化するときには、専用のソフトウェアをインストールするのが一般的です。主要なソフトウェアを3つ紹介します。
おすすめの仮想化ソフトウェア | 概要・特徴 |
VMware vSphere | 大規模環境の構築に向いている ダウンタイムを最小限に短縮できる 負荷に応じて仮想マシンを自動配置できる |
Hyper-V | Windows Server上で稼働 高い性能と効率性を両立 |
XenServer | 新しいサーバーへの移行コストを低減 管理コンソールで柔軟にサーバー構成を調整可能 |
VMware vSphere
VMware vSphereは、世界中で利用されている仮想化ソフトウェアで、大規模環境の管理で重宝されています。
特徴は、障害発生時のダウンタイムを最小限に抑えられること。仮想マシンで何らかの障害が起こったときに、別の物理サーバーで自動的に仮想マシンを再構築できるからです。
システムの稼働中でも別の物理サーバーへ仮想マシンを配置できるため、サーバーのメンテナンス性も向上するでしょう。また、空きリソースに応じて仮想マシンの配置を最適化してくれるので、人手による負荷チェックも不要です。
Hyper-V
Hyper-Vは、Microsoft社が開発・提供する仮想化ソフトウェアで、Windowsの延長線上で利用することができます。ハイパーバイザー型を採用しているため、高い性能と効率性を実現できる点も魅力です。
このようなメリットから用途も多岐に渡ります。複数のバージョンの同時テスト、本番さながらの検証環境でシステムを仮運用、サーバーの統合など、運用効率の上昇や安全なテストを実現できるでしょう。
また、Hyper-VはWindows Serverに標準装備されているので、追加のライセンス料を支払う必要もありません。
XenServer
XenServerは、アセンテック社が開発・提供する仮想化ミドルウェア(OSとアプリケーションの間に位置するソフトウェア)です。
既存のWindows環境を仮想化して新しいサーバーにまとめられるため、移行コストを下げられる点がメリットです。CPU使用率が低いサーバーを集約すれば、ハードウェアの数も削減でき、それに伴う障害リスクや消費電力の削減にも寄与するでしょう。
また、プロビジョニング機能(必要に応じてコンピューターリソースを準備すること)を使うことで、仮想サーバーと物理サーバーを一括管理できます。管理もWindowsのコンソールで操作できるため、容易にサーバー構成を変えられます。
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本記事では、ITインフラにおける仮想化の仕組みとメリット、導入時の注意点などについて解説しました。
仮想化は、1つの物理サーバー上でソフトウェアやメモリなどのリソースを抽象化する技術です。必要なハードウェアを削減できるため、機器の改修や管理、リソース調整などの負担が少なくなります。
一方で、ソフトウェアの操作や仮想環境の構築には一定の専門スキルが求められます。自社に仮想化の知見がある人材がいなければ、プロにサポートしてもらいましょう。
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新卒で大手インフラ企業に入社。約12年間、工場の設備保守や運用計画の策定に従事。 ライター業ではインフラ構築やセキュリティ、Webシステムなどのジャンルを作成。「圧倒的な初心者目線」を信条に執筆しています。